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2009年9月30日 (水)

「はるかなる呼び声」寺原太郎の日記より

「梢にさえずる鳥たちよ、どうか私の想いを故郷へとどけておくれ」

このあたりからもう、全然だめだった。
涙が後から後からあふれてきて、止まらなくなって、吹けなくなってた。
今日のコンサートは、ほんとにやられた。まいった。
今まで何度も一緒にやってきた曲なのに。
こんなになるなんて。

ろうそくの灯りの中、マイクなしに生声で歌うテンジンさん。
歌声が、カフェスローの暗闇に響き、満ちる。
なんて力強い歌声。そして、なんて強い想い。



テンジンさんのふるさとは、決して帰ることのできないふるさと。
正確に言えば、帰ることはできるけど、そしたらもう二度と戻って来れなくなる。亡命者であるテンジンさんにとって、祖国チベットとは今やそういう 場所だ。かの国が中国に武力制圧され蹂躙され59年。虐殺と拷問は今も続いている。いつか祖国に帰れるその日まで、彼は鳥の歌を歌い続けるだろう。



個人的なことだけど、今日の会場へ向かう車には、在日チベット人であるドルマさんとツェリンさんも同乗していて、それがとても感慨深い、というか、嬉しいできごとだった。
ドルマさんは僕の憧れの人でもある。
2年前の7月5日。中国に対するデモの先頭で、小さいからだをふりしぼって声の限りに叫んでいたドルマさんの姿を、僕は今でも忘れることができない。「チベットに、じっゆぅーをー!」というあの言葉、あのイントネーション。今でもずっと頭の中で鳴り響いている。
あの声が、僕にFree Tibetの遺伝子を植え付けた。
ナマステインディアの会場で会った時その話をしたら、
「それじゃきっとあなたは私のスクリーミングボイスしかおぼえてないわね」
とテンジンさんと同じはにかんだ笑顔で答えられ、その笑顔にふたたび胸を打ち抜かれた。
昨年はベリーショートだったドルマさん。今は少し髪も伸びた。

彼ら3人は、ダラムサラで一緒に学んだ、いわば幼馴染みなのだそうだ。
久々に会って、つもる話に花を咲かせる3人。後部座席で交わされるチベット語。
その会話の中で今回発覚したのが、テンジンさんとドルマさんは実は従兄弟(とかなんとか、とにかくそんな感じの親戚)だった、ということ。テンジンさんは「妹」という言葉を使ってたけれど。深い絆。

今この車に乗ってる3人は、きっと皆「ヒマラヤを越えた子供たち」だったんだろうと思うと、胸が詰まる。
「ヒマラヤを越える子供たち」というドキュメンタリー映画、見た人いますか?
大人でも大変なヒマラヤ越え。たいした装備もなしに、両親と二度と会えなくなるのもかまわず、そのヒマラヤを越えてインド側に亡命する子供たち。 中国の国境警備隊に見つかれば射殺。だから夜中に歩く。昼でも大変な険しい道。まわりも見えず、足元の危険な中、気温も下がる夜に峠を越える。足を踏み外 したり、凍傷になって手足の指を失ったり。途中で力尽き息絶えた3歳の妹を背負って、手足の指を失いながらもネパール国境にやってきた5歳の少年。彼は最 後まで妹の身体を放さなかった。なぜ彼らはこんなにも過酷な運命を背負わされなければならないのか。なぜそうまでして親元を、祖国を離れなければいけない のか。
考えてみてください。
毎年1000人以上もの子供たちが、そうまでして脱出しなければならないような状況。
世界中どこを探しても、チベット以外にそんなとこはありません。
そこでいったい何が起こっているのか。
そこがどれほど希望の持てない場所なのか。
もし自分の国が、自分の子供たちがそんな状況に置かれたら、いったいどう感じるのか。どうすればいいのか。
考えても答は見つからないけれど、考えずにはいられません。

祖国の置かれたそんな状況に対して、怒りをぶつけるでもなく、憤るでもなく、声高に叫ぶでもなく、ただただ淡々と、切々と、朗々と、限りなく透明な声で歌うテンジンさん。
この人を日本に連れてこれて、よかった。
日本のみんなに聴いてもらえてよかった。
今日はほんとにそう思いました。
テンジン・チョーギャル。どこまでも高く高く飛翔する一羽の鳥。


「梢にさえずる鳥たちよ、どうか私の想いを故郷へとどけておくれ」




 

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